インタビュー 人・市場 一般社団法人・新宿淀橋市場協会 理事長 内田 秀さん

卸売市場の役割

まず、卸売市場について簡単に説明しますと、行政の手によって卸売市場ができたのは1923年(大正12年)ですね。この年、卸売市場法が制定され、全国に中央卸売市場が作られました。
それまでは、民間の市場しかなかった。そのため、取り扱い規模が小さく、品物不足や価格が不安定になっていました。そうした中、都市部への人口の流入が膨らみ、様々な混乱が生じ、食品の安定供給が求められるようになってきたのです。
こうした社会情勢の変化に対応するため、政府は食料の安定供給と適正な価格を形成するために卸売市場を作ることを決めたわけです。
こうした流れの中で、昭和14年に淀橋分場として開設されたのが、現在、私たちが働く淀橋市場です。
卸売市場の一番の目的は、消費者の皆さまに産地で採れた青果物を安全に、そして適正な値段で新鮮なままお届けすることです。
一方、生産者の皆さまには、丹精込めて作った青果物の販路の拡大の場を提供します。また、買参人や仲卸業者の方々に対しては、効率的な取引の場として存在しています。
つまり、1.集荷・分荷。2.適正な価格の形成。3.迅速な決済。4.青果物の動向に関する情報公開などが、卸売市場の重要な仕事となっています。

 

青果物の消費量は減っていない

最近は、市場に買い付けに来る買参人の人たちが減っていますが、東京都の商業統計調査によりますと、東京の青果店の店舗指数は、平成11年を100とした場合、平成24年では38にまで減少しています。
この大きな原因の一つが、八百屋さんの高齢化や後継者不足、それにスーパーなどの大型小売店の進出によるものです。事実、食品専門スーパーの場合、平成11年を100としてみると平成24年には118に増加していますし、同様に総合スーパーやコンビニも増加傾向を示しています。
こうした背景を見ていくと分かることは、八百屋さんのような専門小売店は減少しているものの、青果物の消費量は減っていないということです。
ここに、まだ私たち市場に関係する業者の生き残る道があるのではないかと考えています。

内田理事長

 

市場はどのように生き残るのか

大型スーパーの台頭直取引の拡大など、こうした社会情勢の変化に、市場の対応が多少なりとも後手に回ってしまったことは事実です。ただ、市場には食料の安定供給と公正な価格を維持するために定められた卸売市場法という法律が存在しています。
市場で商いをする卸会社、仲卸会社はこの法律を遵守しています。専門家の中には「市場は不要」と考えている人もいるようですが、もし、市場がなくなり、自由競争だけで青果物の価格が決まるとすれば、生産量が落ちた際に価格が暴騰してしまうことが容易に考えられます。しかも、冷蔵保存などにより、販売業者が販売量を故意に調整すれば、消費者は無駄に高い商品を買わされ、不利益を被る可能性も考えられないことではありません。
市場はもともと、適正な価格と安定供給を目的として作られたものです。市場を流通する品物が減ったからといって、安易に市場をなくしてしまえば、適正価格と安定供給の原則が消滅してしまい、結局は消費者の家計に大きな負担を強いることになってしまいます。
また、卸や仲卸の流通コストを省けば、価格が下がると考えている人も多いと思いますが、もし、個人で青果物を全国の農家から買い付ければ、その送料はかなり高くなるのではないでしょうか?。消費者の皆さまにご理解いただきたいのは、その送料が流通コストだということです。
私たちの扱う青果物は生鮮食品です。つまり、生物であり、青果物は生きています。生きている青果物を、鮮度の良い状態で速やかにお届けする。それが、市場の機能なのです。買参人の八百屋さんが、毎日早朝から仕入れに集まってきてくれるのも、鮮度の良い品物をお客さまにお届けするためです。

 

安全志向・健康志向に向けた取り組みが大切

今、消費者の間には食の安全に関心が高まっています。「食品の安全について」質問した、インターネット都政モニター平成25年の調査によると、アンケートに回答した67.1%の人が「とても関心がある」と答え、30.5%が「関心がある」としています。つまり、安全安心に関心のある人は97%を超えているわけです。
また、健康志向も相まって、野菜なども国内産への需要が高くなっています。
私たちは、こうした消費者の皆さんの動向に、もっと強く関心を示す必要があるのかもしれません。
なぜなら、農水省の調査によれば、野菜の国民の消費量は平成23年を境に増える傾向を示しているからです。果物はほぼ横ばいで推移していますが、野菜に関しては確実に増えています。
安全な国産野菜へのニーズの高まり、健康志向による野菜へのニーズの高まり、そこには、野菜ブームが目前に迫っているようにも感じられます。
これからは、私たち市場関係者がアイデアを出し合って、このブームの先駆けにならなければならないと思います。
そのためにも、淀橋市場が一つになって取り組んでいる活性化運動を足がかりにして、新しい発想で時代を切り開いて行きたいと希っています。

(平成29年2月6日 談)

内田理事長