大根

 今日、大根は青果店でもスーパーでも必ずみかけるポピュラーな野菜ですが、 その昔、大根は「おおね」と呼ばれていました。平安時代に作られた和名類聚抄(わみょうるいじゅしょう)<承平年間:931年 – 938年に編纂>には、『於保禰(おほね)』として紹介されています。

 大根の原産地は、中近東及び地中海地帯と言われ、日本には弥生時代に伝来したようです。

仁徳天皇稜

 日本書紀(720年:養老4年)の仁徳天皇の歌に「つぎねふ 山代女の 木鍬持ち 打ちし大根 さわさわに 汝が言えこそ 打ち渡すやがはえなす 来入り参来れ」(山城の女が木の鍬を持って畑を耕して作った大根 その白さがさわやかなように さわさわとあなたが言い立てるので 大勢の従者とともにやって来たのだよ)とあり、ここに大根が登場しています。

  一方、古代ギリシャの歴史家ヘロドトス(紀元前490年~480年誕生とされる)の書き残した書物「歴史」(訳:青木巌)の中には、「ピラミッドにはエジプト語でもって労役夫のために大根や玉ねぎにんにくをどのくらい要したかが示されており」という記述があり、かの地ではその頃すでに、大根を食料にしていたことがわかります。

エジプトのピラミッド

 日本に伝来した大根は各地に広がり、それぞれの地で特徴のある大根が作られ、近年までは、根の全体が白い「白首大根」が主流でした。しかし、1974年にタキイ種苗が開発した青首系の宮重大根等を交配した「耐病総太り」は、ス入りが極めて遅く、食味が良く、病気に強いということから、日本の大根市場に大変革をもたらしました。タキイの”耐病総太り回顧録”には「開発当時、青首系の大根は出荷を早めようとすると病害に犯されるため、適期栽培の青首は、特定の産地以外では地場消費にとどまり、遠距離出荷は白首品種による対応が大方でした」とあります。しかし、「耐病総太り」が登場し、この青首大根は秀吉の天下統一のごとく、現在では、市場の90%程度を占有しています。

青首大根

 ◎大根は本来冬が旬の野菜です。しかし、通年市場に出回っているのは、産地リレーが行われているからです。

 政府の統計による”春大根”の2018年の出荷量ベスト3は、千葉県、青森県、長崎県となっています。同じく”夏大根”は北海道、青森県、群馬県で、”秋冬大根”は千葉県、鹿児島県、神奈川県です。

 神奈川県では、根が下膨れしているのが特徴の三浦大根が有名ですが、やはり生産の主力は青首大根となっています。

 ◎大根は、葉がついているものが鮮度を見るのに適しています。青々としてみずみずしい物を選びましょう。ただ、スパーなどでは葉をカットして売っている物も多いので、そうした際には、葉の切り口を見てスが入っていないか確認してください。 茎の切り口の中央が白くなっていたり、空洞になっているものは、根にもスが入っていることが多いようです。

 手に持って重い物は水分たっぷりで新鮮です。また、毛穴の深い物は順調な育成をしていないので、毛穴の浅い物を選びましょう。

 ちなみに、 淀橋市場の卸会社・東京新宿べジフルの出荷カレンダーには、

千葉県:山武郡市農協、ちばみどり農協、市原市農協=10月~6月

千葉県:市川市農協=10月~12月、4月~6月

千葉県:成田市農協=10月~12月、5月~6月

神奈川県:三浦市農協=10月~5月

徳島県:里浦農協=12月~3月

北海道:オホーツク網走農協、ようてい農協、芽室町農協=7月~10月

北海道:標茶=8月~10月

青森県:おいらせ農協=6月~7月、9月~10月

青森県:ゆうき青森農協=6月~10月

と明示されています。

 ◎大根には、ビタミンAやビタミンC、葉酸等の栄養が含まれていますが、それはほとんど葉の部分です。

 根の部分には、でんぷんを糖に分解するアミラーゼやたんぱく質を加水分解するプロテアーゼ、中性脂肪を脂肪酸とグリセリンに分解するリパーゼなどの消化酵素が含まれています。

 こうした、消化酵素を活躍させるには、大根おろしが最適だとされています。辛みが欲しい時は下の部分を、それほど強い辛みを欲しないときは、大根の上の部分からすりおろしてください。 大根おろしを使った「辛み餅」がとても美味しい季節です。また、大根は油にも合うので、サラダなどにして召し上がって頂けます。

三浦大根

 ただし、「耐病総太り」は肉質が柔らかいため、煮物などの場合煮えるのは早いが煮崩れしやすくなってしまいます。おでんなどの煮込み料理には、秋冬に市場に出回る白首系の「大蔵」「三浦」などの品種の方が適しています。ここで、白首系大根もどうにか一矢報いることができました。

 このように、古来から多くの人たちに食されてきた大根は、食卓を飾るレギュラーメンバーと言えるでしょう。(W)